雪景色に際立つ、華やかな「南部地方えんぶり」
「えんぶり」は、豊作を祈願する冬の伝統行事
立春を過ぎた2月9日と10日の両日、南部地方恒例の冬行事「南部地方えんぶり」が行われた。暦の上では春だが、本州最北県にある南部町は、まだまだ冬の真っただ中。それでも、青く晴れあがった空と一面の真っ白な雪景色は、心が洗われるような爽快さだった。
朝9時を過ぎた頃、剣吉諏訪神社で奉納を終えたえんぶり組が、街なかへ移動してきた。きらびやかな烏帽子をかぶった踊り手の姿は、モノトーンの世界をいっぺんに明るくしてくれる。えんぶりは、八戸市と近隣5市町に受け継がれてきた民俗芸能。八戸地方のえんぶりは国の重要無形文化財にも指定されている。他地域でも行われる「田植え踊り」の一つと言われ、厳しい寒さの大地で踊る舞には、豊作を願って春を待つ人々の思いが込められている。
南部町のえんぶりは、ダイナミックな「どうさいえんぶり」
えんぶり組は、組をまとめる親方、烏帽子をかぶった大夫(踊り手)をメインに、笛、太鼓、手平鉦(てびらがね)、唄いなど20から30人で編成される。田植え前の田ならしに使う朳(えぶり)を使って踊ったことから、えんぶりと呼ぶようになったそうだ。地域や組ごとに特徴があるが、テンポが速く勇壮な「どうさいえんぶり」、ゆったりと優雅な「ながえんぶり」の2つに分かれる。
南部町内にある9つのえんぶり組は、全て「どうさいえんぶり」。リズミカルで迫力ある舞が特徴だ。大夫の踊りは「摺り」と呼ばれ、農具の朳(えぶり)をかたどったジャンギをもって田の神様を起こす動きを取り入れ、豊作のお願いをし、タネを撒いて苗を育て、耕して田の準備をし、田植え作業を終えるまでを表現していく。手平鉦の明るい響きを聞くと、観るほうも心が弾んでくる。そして、大夫の踊りの合間で、「松の舞」「恵比寿舞」「大黒舞」などの祝福舞が催される。街なかをえんぶり組が行列するのは、八戸市と南部町のみだという。
町内の組の一つ、「剣吉えんぶり組」に所属し、八戸地方えんぶり連合協議会副会長を務める板垣雅英(いたがき まさてる)さんに、南部地方に受け継がれるえんぶりの話を伺った。
南部地方は、手踊り発祥の地
「太平洋戦争前は町内の神社ごとに30ほど組があったようです。戦時中に一度途絶えたのですが昭和27年に剣吉地区で行列が復活し、今は子どもたちもたくさん参加しています。地元の名川中学校では、授業の中でえんぶりを習うんですよ。協議会メンバーが交替で教えにいっています。南部町名川地区は、南部手踊り発祥の地。町出身の著名な師匠から、直接指導を受けた舞は見応え十分です」。
軽快な舞を披露する中学生たちを見守りながら、「大人になっても、えんぶりが地元にあることを素晴らしいと感じてくれたら嬉しいですね」と板垣さんは微笑んだ。
みんな違って面白い!組ごとの個性ある舞
「南部地方えんぶり」には、数年前から八戸市より一組参加し、今年は「石堂えんぶり組」が参加。南部町のえんぶりはすべて「どうさいえんぶり」のため、八戸市内の「ながえんぶり」を見てもらおうと招待しているそうだ。一連のストーリーは同じだが、よく見れば踊り方や佇まいはそれぞれ。そして、「摺り」の合間に入ってくる余興舞が奥深い!コミカルな漫才風のものもあれば、キレのある踊りもあり、個性に溢れているのだ。えんぶりを特徴づける馬の頭をかたどった烏帽子も華やかで、その絵柄を見比べるのも面白い。
初めて目にする「南部地方えんぶり」は、様式美と独自性を兼ね備えた魅力がたっぷり。北国の冬行事ながらも、南国のような大らかさを感じて不思議だ。一度訪ねると、その不思議さに惹かれて、また訪れてみたくなる。皆さんもぜひ一度、現地で楽しんでほしい。
[大人のための北東北エリアマガジン rakra ラ・クラ 協力ライター 水野 ひろ子]
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