移住者のライフスタイル春 義彦さん、文子さん(五戸町 平成22年 Iターン)


春 義彦、文子(はる・よしひこ、あやこ)
義彦さん昭和57年、文子さん昭和46年生まれ。ともに神奈川県で育つ。文子さんは12歳まで青森県藤崎町在住。自然食販売会社在職中に知り合い、平成22年2月に結婚。同3月、神奈川県横浜市から五戸町に移住・就農。無農薬・無化学肥料の野菜の栽培と販売を始める。夫婦揃ってジブリファン。

「できるわけない」を「よくやってるな」に

 自然食宅配大手で営業を務めていた春義彦さんは、「自分で作ってないものをお客さんに勧めることに違和感を覚えるようになって」退職。自然農法を学ぶため、栃木県のNPO法人の門を叩きました。有機農法はもちろん経理、配送など、農業経営に必要なノウハウを2年で習得。妻の文子さんが子ども時代を過ごした青森県で就農地探しを始めました。五戸町にⅠターンしたのは平成23年のこと。住宅と畑の近さが決め手になりました。
 以来、はる農園では畑とビニールハウスを合わせて約30種類の野菜を栽培。すべて無農薬・無化学肥料の有機栽培です。慣行農法が盛んな地域なだけに、移住当初は無農薬・無化学肥料の農業に否定的な意見もありました。
 「今のおじいちゃん、おばあちゃん世代が子どもの頃手伝っていた農法に近いんですよね。大変さを体感しているから余計に感じたんだと思う。『あのやり方でできるわけない』が、今は『あのやり方でよくやってるな』になりました。見てて懐かしいから、応援したくなるのかも」。
 朝は集落の誰よりも早く畑に出て、日が暮れるまで働く。行動で示すことで、春さんは周囲からの信頼を築いていきました。
 前職や研修の経験から「こういう野菜を流通に乗せるのは厳しいと分かっていた」と春さん。初年度から積極的に売り込みに回りました。八戸地域のスーパーや産直施設、首都圏や県内の自然食品店などに出荷するようになり、今では口コミやブログによる問い合わせも増えています。
 「『子どもがだいこん嫌いだけど、ここのなら食べる』とか『こんなおいしいじゃがいも食べたことない』とか。お客様の声をいただくとやりがいを感じます」と春さんが言えば、「ご先祖様が耕して、守ってきてくれた土がいいんでしょうね。感謝しなきゃ」と文子さん。豊かな土壌と2人が注ぐ愛情が、評判の野菜を生み出しています。

必要なものは全部ここにある

 「満たされてるんですよ。ここでの幸福度が高いから。便利な場所じゃないかもしれないけど、不便は感じない。ここにないものって、たぶん僕らが欲してないものなんです。外食や旅行もたまにはするけど、野菜はやっぱり、自分たちのが一番うまいかな。そのくらいの気持ちでやってます」と春さん。
 移住8年目、需要が伸びるにつれ耕地面積も拡大しています。地域の障害者福祉施設に収穫や袋詰めなどを依頼するようになりました。
 「スピードも大事ですが、それよりも地道な作業をまっすぐな気持ちでやってもらえると、味にも表れる気がして。あの子たちの働く姿を見てると僕らのほうが癒される。助けられてますね」。
 さらに耕地面積を広げて経営を安定させ、地域に雇用を生み出していく将来像を描いています。その姿はもはや〝風の人〞(移住者)ではなく、地域に深く根付いた〝土の人〞でした。

移住者のライフスタイル

 移住先は「ほどよい田舎」が人気です。
 生活するうえで必要な都市機能を備えながらも身近に美しい自然が広がり、人と人の支え合いが根付く暮らし。そんな便利さと暮らしやすさを兼ね備えた生活空間がここにはあります。
 物質的な豊かさは都会ほどではないかもしれません。
 でも、心にゆとりを与えてくれる人との絆がここにはあります。人との絆を、個人の制約ではなく個人の楽しみに変えることができる人に、この地で半都半邑の楽しさを味わってほしいのです。