移住者のライフスタイル長澤 伸さん (田子町 平成28年 Uターン)


長澤 伸(ながさわ・しん)
1975年生まれ。北海道造形デザイン専門学校(札幌市)でデザインを学ぶ。雑誌レイアウト等を手がける都内デザイン会社に8年間勤務後、「キンアカデザイン」事務所を設立。2016年田子町にUターン後は、首都圏の仕事に加えて地域の商品ラベル・Tシャツ・ポスター等のデザインにも活動の幅を広げている。

スキルと人脈を手土産に、人生後半は故郷でのんびり

 『キンアカ』は印刷業界の用語で、鮮やかな赤のこと。重要な部分を際立たせるのに使われます。東京から田子町にUターンしたグラフィックデザイナー・長澤伸さんが屋号に  「キンアカ」を冠したのは、この鮮烈な色の在り方に憧れたから。
 「一般には知られていないけど業界で知らぬ者はない。そんな存在になりたくて」
 長澤さんは札幌の専門学校卒業後、都内のデザイン会社に就職。雑誌・書籍のレイアウトを手がけます。年間発行部数600万部を誇った少年漫画誌などを担当した後、31歳で独立。世田谷区に自宅兼事務所を構えました。仕事は順調。しかし「いつか帰ろう」という思いも持ち続けていました。
 「田子町って、地図で見ると青森県の南端で、隅っこ。中心から外れているのがなんだか落ち着く (笑)」と故郷への愛着を表現した長澤さん。都内で転居をしても、選ぶのはいつも自然のある静かな場所でした。
 その後2011年に父が死去。妹も独立しており母が一人暮らしに。心配した長澤さんはついにUターンの準備を始めます。
 「青森に戻るつもりでいることを、2年ぐらいかけて取引先に話して回りました。幸いにも理解してくれる人が多かった」
 当時すでに独立後10年が経過。気心の知れた取引先とはメールでのやり取りが中心でした。そのため居を移した現在も、仕事で不自由は感じていません。逆に最近は、イベントのTシャツやお菓子のパッケージなど、地域の仕事も増えてきました。
 「田子町の仕事が多いので、次は青森県、その次は東北全体の仕事がしてみたい」
会社員時代から通算20年間で磨いたスキルと人脈を活かしながら、今度は地方から活躍の場を広げることを目指します。

隅っこだけど、閉じてない。若者がつながりやすい町

 田子町の魅力は「すみっこだけど、閉じこもってないところ」
 「ギルロイ市(アメリカ)や瑞山(ソサン)市(韓国)と姉妹都市で行き来があるから、みんな外から来る人に慣れてる。僕もこの間、友だちの家に滞在中のギルロイの方とゲームで盛り上がりました」
 全国的に有名な特産品・にんにくを通じた国際交流。2014年から始まった地域おこし協力隊も町を活気づけています。4年間で2人の元隊員が定住。カフェ経営や農業で活躍中です。長澤さんも役場勤めの友人を介して知り合いました。
 「若い世代が少ない分、つながりやすい。顔見知りがいない場所を探すのが難しいくらいだから、一人になりたい時は家で晩酌。つまみ作りにと七厘を買いました」
 ディープなコミュニティと静かな住環境。その間をマイペースで行き来する長澤さんです。

移住者のライフスタイル

 移住先は「ほどよい田舎」が人気です。
 生活するうえで必要な都市機能を備えながらも身近に美しい自然が広がり、人と人の支え合いが根付く暮らし。そんな便利さと暮らしやすさを兼ね備えた生活空間がここにはあります。
 物質的な豊かさは都会ほどではないかもしれません。
 でも、心にゆとりを与えてくれる人との絆がここにはあります。人との絆を、個人の制約ではなく個人の楽しみに変えることができる人に、この地で半都半邑の楽しさを味わってほしいのです。