移住者のライフスタイル田中 俊行さん (三戸町 平成29年 Uターン)


田中 俊行(たなか・としゆき)
1981年生まれ。実家は代々果樹中心の農家。東北大学文学部卒業後、物流系ベンチャー企業の仙台営業所立ち上げに携わり、やがて営業所長代理に。2017年、いずれ戻りたいと考えていた三戸町にUターン。父母が営む農業を本格的に手伝い始める。オフの楽しみは読書&晩酌と、地域の小学生バスケットボールチームの指導。

未来の自分を描いたとき、直感で決めたUターン

 戦国時代に城が築かれた三戸町は、日本最古級の城下町。メインストリートの奥州街道を歩けば、そこここに残る古民家や神社仏閣が歴史の深さを物語ります。また、ロングセラー絵本『11ぴきのねこ』シリーズを生み出した漫画家・馬場のぼるさんは三戸町出身。町では商店の看板や道端の石像など、至る所でねこたちが出迎えます。
 しかし今回の舞台は、町の中心部から南へ4キロほどの目時地区。岩手との県境にある無人駅・目時駅を中心としたエリアにあるのは、視界いっぱいの緑。田園風景の中に家が点在し、鳥の声が響く里山です。
 田中俊行さんが宮城県から戻り、両親の営むりんご栽培に携わり始めたのは2017年。それ以前は物流サービスを担うベンチャー企業で、仙台営業所の支店長代理を務めていました。
 「仕事は楽しい。でも一生会社勤めする自分は想像できなかった。なんとなく40歳までには帰って農業しようと思ってました」
 〝なんとなく〞とは、すなわち直感。友人に驚かれながらも淡々と準備を進め、数か月後には三戸の畑に立っていました。

ツウを唸らせる三戸りんご  目指すは生産増&6次産業化

 田中家の栽培品目は、主力のりんごをはじめメロン、すいかなど、果物が中心。三戸町は盆地にあるため昼夜の寒暖差が大きく、糖度の高い果物が穫れます。そのおいしさは、りんごを食べ慣れた青森県民の間でも〝味は三戸〞と評されるほど。
 3カ所ある田中さんのりんご畑。その1つに案内してもらうと、初夏の摘果(1株に5〜6個ついた実のうち、形の良い1個を残し他を摘み取る)真っ只中でした。まだ青い実を一つひとつ手に取り成長を見極める鋭い眼差し。淀みないハサミ使いはプロの風格です。しかし意外にも「実は農作業はほぼやったことがなくて、戻って一から教わりました。意外と難しくない…って言ったら怒られるかな(笑)」とのこと。
 農業の魅力を尋ねると、「実がなって、育って、形になる。目に見えるものができてくる面白さは、金額や数字をクリアするのとは違う、農家ならではの喜びかもしれない。正直、収入はもう少し欲しいけど(笑)」
 大部分を青森県産が占める国産りんごの輸出額は、5年連続100億円突破(〜2018年)。『青森りんご』の価値を世界が認めつつあります。田中さんも畑の拡大を計画中。6次産業化も視野に入れています。
 『南部どき』の根市が高校の同級生で。近くで頑張っているのを見ると、何かしたいなって思うんです」
 Uターンと同時に就農して3年。仲間に刺激を受けながら、りんごの可能性を追求する日々が始まろうとしています。

移住者のライフスタイル

 移住先は「ほどよい田舎」が人気です。
 生活するうえで必要な都市機能を備えながらも身近に美しい自然が広がり、人と人の支え合いが根付く暮らし。そんな便利さと暮らしやすさを兼ね備えた生活空間がここにはあります。
 物質的な豊かさは都会ほどではないかもしれません。
 でも、心にゆとりを与えてくれる人との絆がここにはあります。人との絆を、個人の制約ではなく個人の楽しみに変えることができる人に、この地で半都半邑の楽しさを味わってほしいのです。