移住者のライフスタイル中村 淳悦さん(おいらせ町 平成16年 Iターン)


中村淳悦(なかむら・じゅんえつ)
昭和28年生まれ。青森県上北郡七戸町(旧天間林村)出身。県立高校の事務長を務め、県内各地に赴任。平成16年、50歳でおいらせ町向山地区に移住。同22年から25年まで向山町内会長を務め、現在はおいらせブランド推進協議会運営委員としても活動。向山駅愛好会会長。

無人駅が賑わいの中心に

 おいらせ町にある青い森鉄道向山駅。「向山駅ミュージアム」と銘打った駅舎に一歩足を踏み入れると、歴代駅長の名札に作業机、金庫や帳簿など、旧国鉄時代を物語る資料が往時をしのばせます。展示品は昭和30年代のものが中心で、平成4年の無人化から約20年間、閉ざされた駅の中で眠り続けていました。
この“宝”に光を当て、小さな無人駅を地域の賑わいの中心に変えたのが、向山駅愛好会会長の中村淳悦さんです。向山町内会長を務めていた平成23年、町内会有志とともに駅舎を改修し、自ら運営を始めました。5月~11月までの毎週土曜日に産地直売市「向山市」を開いたり、ツアーやイベントを開催。鉄道ファンや元国鉄職員の協力もあり、今では全国から鉄道ファンが集まる“聖地”になりました。しかし同時に地域住民憩いの場でもあり、老若男女が集うのが特徴です。
「鉄道に詳しくてもそうじゃなくてもOK。集まって会話を楽しみ、心和むひとときを過ごして、人と人との輪が広がっていけばいい。向山は“わ”の駅です」と中村さんは微笑みます。

人生の第二幕は地域コミュニティづくり

 中村さんは県立高校の事務長として県内各地に赴任していましたが、子どもたちが独立した50歳を節目にギアチェンジ。仕事中心の生活を変え、スローライフを実現できる場所を探し始めました。2年かけて県内を見て回り、人生のセカンドステージに選んだのがおいらせ町向山地区です。平成16年のことでした。
「野鳥や山野草が楽しめる自然があるのに、八戸・三沢の都市にも近い。近くにショッピングセンターがあるし、雪が比較的少ない。自然が満喫できて利便性もあり、ほどよいですね」。
移住後すぐに町内会活動に参加。集会所の老朽化に驚き建て替えを提案すると、リーダーを任されました。集会所建設委員会を発足させた中村さんは町内会長となり、地域コミュニティづくりのキーマンとなっていきます。まず取り組んだのが、町内会組織の改編。組織を自主防災部以下6部、子ども会以下3会に分け、誰もが参加しやすい仕組みを整えました。中でも、その時生まれた駅利活用部は駅ミュージアム開館の原動力に。平成25年には向山駅愛好会に発展し、その後は前述したとおりの人気スポットへと変身しました。
「県全体にも言えますが、自然の美しさや食文化など、人を呼べる要素を持っている。駅に宝が眠っていたように、どこにでも楽しみはあるんです。それを生かせるかどうかは、動くか動かないかの違い。地域の人にとっては当たり前かもしれない魅力に気付いて発信していくのが、移住者の頑張りどころ。我々が楽しんで活動しながら、来てくださる人を楽しませることができたら」。
駅周辺で楽しめる場所を増やしたいと、自宅庭にはコーヒーが飲めるカウンターやピザ窯を自作。山野草の苗を植え、オープンガーデン作りに取り組む中村さん。線路そばと駅前の空き地にもラベンダーを植え、花開く夏を待ちます。

移住者のライフスタイル

 移住先は「ほどよい田舎」が人気です。
 生活するうえで必要な都市機能を備えながらも身近に美しい自然が広がり、人と人の支え合いが根付く暮らし。そんな便利さと暮らしやすさを兼ね備えた生活空間がここにはあります。
 物質的な豊かさは都会ほどではないかもしれません。
 でも、心にゆとりを与えてくれる人との絆がここにはあります。人との絆を、個人の制約ではなく個人の楽しみに変えることができる人に、この地で半都半邑の楽しさを味わってほしいのです。