古くから続く春を呼ぶ舞「えんぶり」

2019/03/15 - ファンクラブ通信

えんぶりは八戸地方を象徴する郷土芸能

毎年2月17〜20日にかけて行われる「八戸えんぶり」。期間中は30万人以上の人出がある東北を代表する祭りで、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。

その起源は諸説あるが、南部藩の始祖・南部光行の家来同士で抜刀する騒動があり、藤九郎という人物が歌と踊りで丸く収めたというのが定説のひとつ。

えんぶりは豊年を祈願する田植え踊りの一種だ。朳(えぶり)という水田をならす道具を持って舞うため、えんぶりと呼ばれるようになったそう。また、えんぶりの舞うことを「摺る(する)」というが、これは朳で土を整えることを「摺る」というので、舞う=摺るになったといわれている。えんぶりが終われば、もうじき厳しい冬が終わる。えんぶりは、春を呼びこむ舞として古くから親しまれている。

所作と装いが異なる2つの舞

えんぶりは「えんぶり組」という団体ごとで継承されてきた。ひとつの組は約20〜30人。親方、舞子、お囃子といった役割をそれぞれ持つ。その中でとりわけ目立っているのが「太夫」。きらびやかな烏帽子を被っているのが目印で、えんぶりの主役だ。

えんぶりには「ながえんぶり」と「どうさいえんぶり」の2つの舞がある。ながえんぶりは、流れるようにゆっくりとした優雅な舞。太夫のリーダーである「藤九郎」と、他の太夫が違う動きをするのも特徴的だ。一方のどうさいえんぶりは、素早い動作で勇ましく舞う。

どちらを摺るかは各組で違う。ながえんぶりは藤九郎の烏帽子に赤や白の花がつき、どうさいえんぶりの烏帽子には「前髪」というリボン状の飾りがつくので、初心者でも簡単に見分けられるのだ。

豪快で厳かな姿に心奪われる

2月17日早朝、長者山新羅神社での「奉納摺り」で八戸えんぶりは幕を開ける。今年は八戸市内外から33のえんぶり組が参加した。各組が奉納摺りを終えると、行列をなして町を練り歩く。

実はこの行列の順番は、17日の0時から長者山新羅神社で始まる「仮受付」の時点で太夫やお囃子などの「えんぶり組」の構成が揃っていることが確認された上で、決まる。「一斉摺り」の先頭で摺ることはとても名誉なこと。「一番札」と呼ばれるこのポジションを得るため、数日前から神社の敷地で寝泊まりするそうだ。

中心地に各組が到着すると、いよいよ最大の見せ場「一斉摺り」が始まる。合図とともに33組のえんぶり組が一斉に摺る姿は圧巻。あちらこちで囃子が聞こえ、各組の太夫がゆっくりと摺り始める。3人あるいは5人の太夫が笛、太鼓、手平鉦のお囃子に合わせ、「摺り始め」「中の摺り」「摺り納め」と順に演じる。沿道が人混みのわりに静かなのは、多くの人が所作に見とれているからだろう。

そして、摺りの合間に披露されるのが子どもたちの祝福芸。扇子を手にした「松の舞」に、銭太鼓という輪を回しながら踊る「えんこえんこ」などなど。恵比寿様が鯛を釣る様を演じる「恵比寿舞」は、コミカルで笑いも散りばめられている。各組には代々伝わる演目等がある。囃子や所作、衣装の違いを比較して見るのも楽しさのひとつかもしれない。

期間中の八戸市では、いたるところでえんぶりを見ることができる。八戸市庁前広場では「御前えんぶり」として、7組のえんぶり組が年番制で八戸市長らの前で披露。かつては殿様の前で舞っていた名残だ。夜に同会場で行われる「かがり火えんぶり」も幻想的でファンが多い。また、国の登録有形文化財となっている明治の財閥の邸宅「更上閣(こうじょうかく)」の庭園で行われるのが「お庭えんぶり」。温かい甘酒と八戸名物せんべい汁をたしなみながら、贅沢な雰囲気でえんぶりを鑑賞できるのだ。

えんぶりは若手がアツい!

えんぶりは八戸市周辺のみならず、岩手県北部から青森県むつ市でも行われていた。最盛期には各地に200組以上が存在し、八戸えんぶりにも100組を超える組が参加していたという。現存するえんぶり組は45組ほど。そのほかの組は高齢化や人手不足で休廃止の状態だ。

ところが八戸えんぶりの会場を見渡してみると、子供や若い参加者が目につき、そんな不安を感じさせない。内丸組の佐々木春さん(19)もそのひとりだ。「小さい頃からえんぶりを見ていて『伝統芸能ってかっこいいな』と思ってました。うちの組は若手が多いし、他の組では同級生たちも頑張ってます」。佐々木さんが内丸組に入ったのは高校2年のときだ。最初は身体にリズムを刻むため太鼓を練習し、昨年からは太夫としてえんぶりを摺っている。「練習は厳しいというより、丁寧に教えてくれる感じですね。始めは思ったように身体が動かず、その時に太夫の凄さを知りました。今は先輩たちのように、かっこよく摺るのが目標です」。佐々木さんはそう言うものの、一斉摺りでは先輩たちに負けないほどの摺りを披露。凛とした表情で太夫を立派に務めあげた。

今年から2月17日が「えんぶりの日」と定められ、八戸市内の小中学校は休み。郷里の文化に愛着を持ってほしいというのが狙いだが、それ以前から八戸の若者たちは半端ない情熱を抱いている。ぜひ現地でそのアツさを体感してほしい。

八戸えんぶり情報

 

[大人のための北東北エリアマガジン rakra ラ・クラ ライター 小田切 孝太郎]