命をつないだそば「階上早生」、100年続くおいしさの理由。

2019/10/19 - ファンクラブ通信

過酷な環境で育ったそばが人々を救う

青森県の太平洋側は夏になると「やませ」という冷たい風が吹く。この風がもたらす冷涼な環境は稲作に向かず、代わりに痩せた土地でも育つそばを栽培してきた歴史がある。階上町も古くからやませに悩まされてきたが、飢饉の時はそばが人々を救ったのだ。

同町で栽培されていたひとつが在来品種の「階上早生」。寒さに強いこの品種は、大正4年の大凶作のときでさえ、ある程度の収穫量があった。当時の青森県農事試験場では、この種子を取り寄せて調査。大正7年に「階上早生」と命名される。昨年で100年を迎えた、県内で唯一のソバの奨励品種である。

厳しい環境、厳しい品質管理で素材の純粋さを保つ

強いコシと香りが特徴の階上早生は、県内各地で栽培されているが、名前を冠した町のこだわりは群を抜く。平成25年に商標登録された「階上早生階上そば」の定義が、その情熱を物語っている。

大切なのは純粋な階上早生を作ること。階上そば振興委員会「階上そばりえ」が舵を取り、徹底した品質管理を行っている。そばは他の品種と交雑しやすいため、種子は青森県農産物改良協会から仕入れたものを使用。また、種まきの時期と量も生産者全員で統一し、畑は土壌診断をしたうえで、なるべく他の作物から離れた場所で育てる。こうして育てられた階上早生は黒褐色で大粒、土の香がほのかに感じられるのだ。

「階上早生階上そば」は3たてがルール!

階上早生階上そばと名乗る品を提供できるのは限られた数店舗だけ。風味を強く感じてもらうために、引き立て、打ち立て、茹でたての「3たて」で提供することが義務付けられているからだ。

提供店のひとつ「階上町わっせ交流センター」では、そば打ち歴10年を超える職人が作業に追われていた。「気候や湿度で、少しだけど毎日そば粉の状態は違う。それに気づくために、指先の神経に集中する。水を加えてこねるほどに香りが増してくるよ」と静かに語る。打ち方とタレは提供店で異なり、わっせ交流センターは9割そばが基本メニュー。土日は20食限定で十割そばを提供している。

丹精込めて打ってくれたそばは、薄っすらと茶色い。箸を通した段階で香りが漂い、口に含むとそばの風味が一気に広がる。噛むほどに甘みが出てきて、気持ちよく喉を抜けていく。厨房で調理を担当するお母さんが「煮干し以外は企業秘密よ」と、教えてくれたタレも美味で、深みとあたたかさを感じた。

「階上早生新そば祭り」で旬の味を味わう

階上町では毎年10月に「階上早生新そば祭り」が開かれる。今年は10月12日~20日が祭り期間で、期間中の土・日・祝日は、わっせ交流センターほか、「道の駅はしかみ」、「フォレストピア階上」を会場に同価格でそばを提供。階上早生の知名度が高まっていることもあって、訪れる人は年々増えている。「昨年はあまりの盛況ぶりで、最長で一時間半待ちに。それなのに『おいしかったよ』と声をかけてもらいました。階上早生は時間を忘れるおいしさがあります」と事務局長の清水頭登さんは話す。同日は「素人そば打ち段位認定階上大会」も開催され、県内外から集まった愛好者が真剣な眼差しでそばと向き合う。

階上早生階上そばの振興拠点となっている同施設では、商品開発も積極的に行っている。手軽に味わえる乾そば、焼酎にお菓子などなど。最近ではダイエット効果が期待されるそばの実も人気なのだとか。また、年間を通してそば打ち体験も可能だ。自分で打ったそば、プロが打つそば、それぞれを味わえば階上早生をもっと好きになるに違いない。

[大人のための北東北エリアマガジン rakra ラ・クラ ライター 小田切 孝太郎]

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