海の恵みと文化が凝縮された「いちご煮」。

2019/02/08 - ファンクラブ通信

三陸の浜から生まれた「いちご煮」のナゾ

いちご煮の謎に迫るべく向かったのは階上町。青森県を地図で見ると一番右下、岩手県と隣接する町だ。宮城県から延びる三陸海岸の北端部分に位置するこの町は、古くから海産物に恵まれてきた。

「昔は漁の合間に、鍋で具材を煮込んで食べてました。当時は『いちご煮』という名前は無かったと思います。階上ではウニのことを『カゼ』と言うので、『カゼ汁』なんて呼ぶ人もいましたね」。そう話すのは階上漁協女性部会長の荒谷恵子さん。隣の岩手県洋野町からこの地に嫁いで40年以上になる。

この一帯では30年ほど前まで、素潜りでウニやアワビを獲っていた。冷たい海に潜ると、あっという間に体が冷えるので、浜辺で焚き火をして暖をとる。このときに海水で海産物を煮込んで食べたのがいちご煮の始まりだ。ウニやアワビを中心に、その時々に獲れた海の幸が山盛りで、汁よりも具がメインの漁師料理だった。

ウニは熱湯に入れると、身の表面がツブツブと膨らんでくる。それが黄色い山野イチゴのように見えることから、「いちご煮」という名前で呼ばれ、次第に地域に浸透したと言われている。

具だくさんすぎて箸が立つ!?階上のいちご煮

いちご煮は時代の流れの中で、少し姿を変えてきた。現在のいちご煮は、ウニとアワビが入った上品なお吸い物で、冠婚葬祭の定番料理になっている。「ウニが獲れなくなってきたのも、具が少なくなった理由のひとつかもしれない。だけど私達にとっていちご煮は、汁よりも具を味わう料理なんです。浜の人達は、親戚、孫が来るたびに作っているんです。」と荒谷さんは話す。階上町の海沿いで育った人にとっていちご煮は故郷の味。帰省シーズンには多くの家庭が、ウニとアワビを揃えて家族の帰りを待つ。

荒谷さんの作り方は実にシンプル。小鍋で、鰹節を煮立てないよう気をつけて出汁をとったら、塩を少々。そこにウニを大きなスプーンで山盛り5杯、火を止めてからアワビを投入。大葉とネギで彩りを加えたら完成だ。生の素材が最も出汁がとれるので、階上の人は獲ったその日のうち仕込むそう。薄く濁った汁を一口すすると、磯の香りとともに、凝縮したウニとアワビの味が口に広がる。舌の上でとろけるウニと、こりっとした歯触りのアワビの甘味が、大葉の香りで一段と引き立つ。ゴロゴロとしたウニとアワビを、箸で掻き込む瞬間は幸せそのもの。汁は少なめで箸が立つほど具だくさんなのが、階上流のいちご煮だ。

「はしかみいちご煮祭り」で気軽に味わう

階上町では毎年7月下旬に「はしかみいちご煮祭り」を開催している。ステージイベントや花火もあがる一大イベントの中、やっぱり目玉はいちご煮。会場となる小舟渡海岸は町を代表する景勝地で、広い芝生の上で海岸線を眺めながら味わういちご煮は格別。このイベントでは「元祖いちご煮」を一杯2500円の数量限定で振る舞っている。お椀たっぷりにウニが入るその一杯は、いちご煮の原点のよう。いちご煮も元祖いちご煮も、毎回売り切れるほど好評だ。

「美味しい食べ物が溢れた時代だけど、階上に来たら浜らしいものを食べて、思い出にしてくれたら嬉しいね」と荒谷さん。第一回の祭りから20年間いちご煮作りを担当してきた階上漁協女性部。現在は後継に役目を譲り、昨年5月にオープンした「はしかみハマの駅あるでぃ~ば」内の軽食コーナーで、階上の魅力を発信し続けている。その名もあっぱぁかっちゃぁ’ズ(『あっぱ』と『かっちゃ』は南部弁でお母さんという意味)。浜の味を味わいに、キツめの方言で優しく話してくれる「かっちゃ」たちに会いに、ぜひ階上に足を運んでほしい。

[大人のための北東北エリアマガジン rakra ラ・クラ ライター 小田切 孝太郎]