じっくり乾燥、うま味ぎゅっと 新郷の天日米
「青天の霹靂」にも負けない
青森県のブランド米と言えば、今や、生産条件が良い津軽地方で作られる「青天の霹靂(へきれき)」が有名。だが、新郷村でじっくりと自然乾燥させて作られる「ゆる~り天日米」も、おいしさは負けていない。
昔ながらの製法で、稲刈り後に2、3週間ほど天日干しする。一般的な機械乾燥に比べて、うま味成分が失われにくく、コメ本来の味や豊かな香りを楽しめるようになる。
時間と手間は掛かるが、天日米はおいしい―。機械化が進んだ現代でも、村内の農家は自家消費用に作っていた。
村は付加価値の高いコメ作りの在り方を模索する中で、この天日米に着目。2013年から商品化に向けて動き出した。
生産は3農家のみのレア米
13年、村農産物研究会の村岡和俊さん(74)が試験栽培を開始した。東京ドームでの「ふるさと祭り」などで販売したところ、「安くておいしい」と評判に。今では同会の3農家が生産するようになった。
新郷産の天日米の品種は、県銘柄の「あさゆき」と「まっしぐら」。栽培に使っているのは、村の清らかな水と、地元施設「有機資源センター新郷」が牛ふんから作る有機質肥料だ。
天日米作りは稲刈り後の手間に加え、天候にも左右されるため、生産者がなかなか増えず数量も少ない。新郷産の天日米は、県内でほとんど流通しておらず、都内のアンテナショップなどでしか購入できない「レア米」なのだ。
広がる田舎の原風景
天日干しの方法は2パターンある。一つは、刈り取り後の稲束を干し台に「はせ掛け(はさ掛け)」した状態のまま、乾燥を待つやり方だ。
もう一つは、稲束の穂の部分を下にして「側立て」という状態で乾かした後、「野積み」で再び乾燥させる方法。2段階の作業になるため、当然、前述のはせ掛けよりも労力を要する。3農家のうち、この方法を貫くのが村岡さんだ。
19年11月中旬、村岡さんの田んぼでは、一家総出で野積み作業を行っていた。こうした作業があちこちで繰り広げられる様子は、さながら田舎の原風景といったところ。
「今のような農機具がない時代、この辺はみんな天日干しだったのさ」と村岡さん。「側立てと野積みをすれば、ムラなく乾燥できる。手間は掛かるし体力的に疲れるが、俺のこだわり。生きがいだね」
「コメ=津軽」じゃない
今年は稲刈り後、例年より雨の日が多かった。乾燥が進まず、天日米作りは2週間ほど遅れた。
やませの常襲地帯の南部地方。コメ生産は津軽地方よりも環境面で不利だ。県が推す「青天の霹靂」も、津軽に栽培が限られている。
新郷村はやませに加え、中山間地域にあるという点でも生産条件が悪い。同会の長根透会長(29)によると、村の農家は半世紀以上前から、より良いコメ作りを独自に模索してきた歴史がある。
14年から天日米作りに取り組む長根会長。「“コメ=津軽”じゃない。天日米で南部地方、新郷でも価値あるうまいコメを作れることを示したい」と思いを語る。
(※本文中の年齢は取材時点)
[デーリー東北新聞社五戸支局支局長 出川しのぶ]
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