水炊きと焼肉を同時に。「義経鍋」で馬肉を満喫。

2019/06/28 - ファンクラブ通信

馬肉のまち、青森県五戸町。

八戸市と十和田市の中間に位置する、青森県五戸町。町の歴史をのぞくと、かつて南部藩による軍馬の育成のための牧場が置かれていたようだ。五戸を含む一戸から九戸の地名は、それら牧場につけた名称であると、言われているらしい。

五戸は馬食文化も盛んで、地元の郷土料理といえば「桜鍋」とのこと。「桜鍋と馬刺しがあれば晩御飯が整う」という人もいた。それほど、馬肉料理は町民から親しまれているようだ。「五戸といえば馬肉」「馬肉といえば五戸」というイメージは、県内外で定着している。

馬肉は「桜肉」とも呼ばれる。理由は諸説あるようだが、一説によると、馬肉の赤身が桜の花のように鮮やかな色であることに由来している、とのこと。低カロリー、高たんぱく質で鉄分が豊富。ヘルシーに食べられるという点も魅力である。

ということで、馬肉料理を味わいに五戸へ。町内には馬肉料理を提供する精肉店、レストラン、居酒屋などが数軒ある。今回は、老舗「尾形精肉店」を訪れた。目当ては桜鍋、ではなく「義経鍋」。知人からすすめられたのだが、聞き慣れない名前である。いったい、どんな料理なのだろう?

焼肉、ときどき鍋。

食べるのは義経鍋と決まっていたが、一応メニューブックに目を通すと……ずらりと並ぶ、馬肉料理の数々。桜鍋、馬しゃぶ、ヒレステーキ、寿司、馬刺、鉄板焼、馬肉入りピザに、馬もつ煮まである。こんなにたくさんのラインナップがあるとは、さすがは馬肉のまちの有名店である。尾形の三代目女将によると、尾形は牧場を持っているため、馬をまるごと、無駄なく使えるのだという。メニューの数もそうだが、それぞれの料理をさまざまな部位で楽しめることが、この店の自慢なのだ。

と、メニューブックに噂の義経鍋を発見。写真には、鍋と鉄板がドッキングした、見慣れぬ調理器具が写っていた。説明文には、「源義経公一行が、平泉から落ち延びる途中、武蔵坊弁慶が野鳥などを捕らえ、兜を鍋の代わりにして料理し精をつけたといわれています」と書かれている。この義経公の伝説をヒントに、水炊きと焼肉が一緒にできる義経鍋が考案された、ということのようだ。「五戸だけでなく全国各地で、その土地の料理で食べられているのではないでしょうか」と、女将が教えてくれた。

五戸ではもちろん馬肉料理で。尾形の義経鍋は、中央の鍋部分で豆腐と野菜を水炊きして、また鉄板部分では馬肉や野菜を焼いていただく。決まったルールがあるわけではないから、好きなように食べていいそうだ。義経鍋で出される馬肉は、特上のハラミとカイノミとのことで、期待が膨らむ。

いざ、実食。女将によると、肉を上手に焼くコツは、最初にまんべんなく馬の脂を敷くことだという。そのうち四隅の油だめに油がたまるので、からませてから鉄板にのせると、くっつきにくくなる。この油は、さらりとしていて体にやさしく、香りもいい馬油だ。

馬肉を両面焼いて自家製タレをつけ、至福の一切目。やわらかい! 噛みしめるとうまみがしっかりと感じられて、後味はさっぱりだ。味噌ベースと醤油ベースの2種類ある自家製タレも食欲をそそる味わいで、二切れ目、三切れ目と箸がとまらない。合間の水炊きが、またいい。焼肉と鍋を同時に楽しむひととき。贅沢な時間に感謝しつつ、食べ進める。結構なボリュームがあったのだが、義経鍋はあっという間に空になった。

五戸に来ないとなかなか食べられない、ユニークな馬肉料理。「まだ未体験の友人を誘って、また食べに来よう」。そう思いながら、店を出た。

[大人のための北東北エリアマガジン rakra ラ・クラ ライター 井藤 雪香]