新たな世界の扉を開いた、八戸ブイヤベースフェスタ。

2019/03/22 - ファンクラブ通信
「八戸を世界で一番地魚を愛する街にしたい」
八戸ハマリレーションプロジェクトの想いに
地元シェフと市民が共感、現実に。

1皿目は、魚介の旨みが濃縮されたスープ。2皿目は、魚介のポワレに濃厚ソースがかかったクラシックスタイル。2皿続きのブイヤベースは、インタビューの直前に訪れた、八戸市の「ビストロ ポ・デタン」の今年の「八戸ブイヤベース」だ。

南仏マルセイユ発祥の魚料理・ブイヤベースを、八戸でしか味わえないひとつの名物にするために、「八戸港に水揚げされる魚介類を最低4種類以上使うこと」「スープと各店ごとの締めの一皿、二度の楽しみを提供すること」という2つの独自のルールを設けた。これにもとづき、参加店(2019年は14軒)のシェフが提供するのが、八戸ブイヤベースだ。2012年から毎年、2/1〜3/31の2ヶ月間開催されている「八戸ブイヤベースフェスタ」の期間中に食べることができる。

ポ・デタンの八戸ブイヤベースを味わって、「八戸の魚はこんなにも美味しいのか」と、感激した。それに、ほかの店の八戸ブイヤベースはどうなのか、好奇心も掻き立てられた。フェスタは今年で8回目の開催であるが、週末はどの店も予約でいっぱいになるなど、好評を博しているそうだ。食べる人の心を打つ八戸ブイヤベース。誕生の裏には、いったいどんなストーリーがあったのだろう? 実際に食べてみて、もっとこの料理のことを知りたくなった。訪ねたのは、主催の「八戸ハマリレーションプロジェクト」主要メンバーの早狩昌幸さんだ。

「すべては、ハマリレーションプロジェクトの立ち上げから始まりました。八戸の水産業界有志を中心としたメンバーで、2011年6月頃から活動を始めた団体です」。設立の目的は、震災復興だったという。「会社横断的に、持続して寄与できる活動をしようと。水産業周辺の6、7人くらいが集まり、そこから話し合いをしていきました」。まずは、と物販のイベントを始めたが、「ただ売るだけでは独自性にハテナがつく」と、ブレストを積み重ねる。そのうち早狩さんは、東京に住んでいた時のことを思い出す。「当時僕のまわりの人たちには、八戸が水産の街というイメージがほとんどなかったなあと、気がついて。だから、八戸がどのような魚の街なのかというイメージを作ることが、八戸にとってプラスになるのではないかと考えました」。思いを巡らせるうちに、「地魚を愛する街八戸」というメッセージが浮かんだ。

では具体的に何をするか。模索し地元民へのアンケートを繰り返すうちに、メンバーも驚きの意外な事実が判明する。「地元の方々の多くは、外国産の魚も八戸の魚と思って食べていたようなんです。マグロやサーモン、エビなど、八戸ではあまり獲れない魚介が、好きな魚の上位にあがっていました。地魚愛を高めるという観点からすると、これはまずいぞと。まずは地元の方にきちんと地魚を食べてもらって、知って、ファンになってもらわなければならないなと、思いました」。そこで出たのが、料理イベントを開催するという案だ。「素材そのもの、例えばタラを食べましょう、サバを食べましょうではなく、料理として食べてもらったほうが魅力を感じられるのではないかと。そこで、メンバーが食べたいと思う料理を出せるだけ出しました。そのなかに、ブイヤベースもあったんです」。名前は知っていても、なかなか食べる機会がない料理である。「地中海の魚介料理だということはぼんやりとわかっていて、美味しそうだなあと思うけれども、実際どんな味なのかわからない。このギャップがいいよねと、盛り上がりました」。「八戸ブイヤベース」というネーミングまで決まりかけたとき、早狩さんは、東京時代の友人夫妻に意見を求めた。「実は、ベタなんじゃないかと密かに心配していたんです。でも、友人夫妻は、それは全然ベタじゃない、いいネーミングだと言ってくれて。響きが美味しそうだと。八戸という未知の、なんだか美味しい魚がありそうだというイメージと、ブイヤベースという料理がぴったりと合っていていいと思うと。地元以外の視点から前向きな意見が出たことで、私も心が決まりました」。

次は、料理を作ってくれる提供店だ。一番最初に相談したのは、八戸プラザホテルだった。「今はもう引退されてるんですけど、当時の蛭子総料理長が話を聞いてくださって。そしたら、よくぞ言ってくれたと。長い間総料理長をやっているけれども、洋食、しかもフレンチのこういうイベントを持ってきてくれた人はいなかったと。ぜひ応援したいと言っていただきました」。蛭子さんは、ほかのホテルもつないでくれた。「あとは個人店。これは1軒1軒まわりました。断られたお店ももちろんありますけれども、今も続けてくださっているようなお店は、わりとすんなり賛同してくださいました」。早狩さんたちハマリレーションプロジェクトのメンバーは後で知ったことなのだが、ブイヤベースは大変手間とコストがかかる料理であるという。だから提供店側は、リスクもある程度想定できた。「それでも賛同してくださったのは、当時はみんなが震災復興のために何かしたいと思っていたからかもしれません。応援できるなら、というお言葉は心強かったですね」。

こうして準備が進み、魚が美味しくもあり店側の余裕もある時期である、2月から3月に期間を設定。2012年にフェスタを初開催することができた。資金がなく限られた宣伝しかできない中、予想以上の反響があったという。口コミで評判が広がり、3月には注文が一気に増え、最終的に12軒で約5000食を販売した。「こういうイベントを待っていましたという声を、食べてくださった方からたくさん聞きました。それから、八戸の魚を食べて応援できるのが嬉しい、という声も。これは私たちも嬉しかったですね」。

それから毎年約1000食ずつ販売が増えていき、2018年までの7年間の累計は約58500食に上った。「市民の方々が、自分たちのイベントだと思ってくださっている。八戸の魚に誇りを持ってもらったように感じられて」と、嬉しそうな早狩さん。フェスタの成長の裏には、シェフたちの切磋琢磨があると、話す。「長年変えずにきたブイヤベースのスープを変えたホテルのシェフ。毎年スタイルを変えて提供する個人店のシェフ。シェフのみなさんの絶え間ない挑戦が、八戸ブイヤベースの底上げにつながっているんじゃないかと、思っています」。シェフたちのさまざまな感性をその年ごとに楽しめる。食べ歩きの楽しみも、ファンを魅了する。

今後の展望も聞いた。「観光コンテンツとしても太鼓判を押せるものになりましたので、これからは外部へのアピールも積極的に行っていきたいですね。2月はえんぶりもありますから、えんぶりを見て八戸ブイヤベースを食べませんか、と」。日本中探しても、八戸でしか味わえない体験。なるほど、魅力的である。「八戸ブイヤベースは、寒い冬に八戸で食べてこそ成立する料理です。本場ヨーロッパの、夏のバカンスで食べるブイヤベースとは、一味も二味も違うと思います。ぜひ多くの人に食べに来ていただけたらと、願っています」。

早狩さんは現在水産加工業界から転職し、「八戸ポータルミュージアムはっち」内でチーズ専門店「CHEESE DAY」を営んでいる。営業のかたわら行うハマリレーションプロジェクトの事業も、ライフワークとしてますます精力的に活動しているそうだ。「学校などで食育活動を行うこともありますよ。根っこはブイヤベースと一緒です。八戸の食文化を応援したいということ。そのためにも、八戸の地場産品を愛して、誇りに思って食べる、食べ手を育てて行きたいと思っています」。

—『新鮮な魚が集まる港に旨い魚料理あり』は、今や八戸にもあてはまる常識となりました。—

これは、八戸ブイヤベースのミニハンドブックに書かれた一文である。八戸の作り手、食べ手が、地元に新たな価値を生んだ。

八戸ブイヤベース情報

 

[大人のための北東北エリアマガジン rakra ラ・クラ  ライター 井藤 雪香]