移住者のライフスタイル津川貞一さん、美惠子さん(三戸町 平成22年 Uターン)


津川 貞一、美惠子(つがわ・さだいち、みえこ)
貞一さん昭和17年、青森県黒石市生まれ。美惠子さん同22年、同三戸郡三戸町生まれ。就職先のスーパーマーケットで出会い、42年結婚。貞一さんが精肉部門を担当していたことから東京都日野市で精肉店を始め、約40年間営業。平成22年7月、三戸町へUターン。

シャッター街を元気にしたい40年続けた惣菜店を移住後に再開

 目抜き通りに残るレトロな建物に、城下町の歴史が感じられる三戸町中心部。手書きのポップを頼りに香ばしい匂いをたどれば、手作り惣菜のお店『せきね一番』が見つかるはずです。
 こちらの一番人気はトーフカツ、1個100円。豆腐と刻み野菜の自然な甘さをサクサクの衣が包み込む、素朴なおいしさです。ほかにも焼き豚ややきとり、コロッケに餃子、シュウマイにポテトサラダ…などなど、メニューは約50種類。どれもがどこか懐かしい、やさしい味わいなのは、店を営む津川貞一さん、美惠子さんの人柄が表れているからかもしれません。元気のいい「いらっしゃい!」の後は「表面を焼いてから煮る。こうすると肉の旨みと歯ごたえがちゃんと残るんだ」と、貞一さんが試食用の焼き豚を差し出してくれました。
 2人が三戸町に移り住んだのは7年前。結婚以来東京・日野市の駅前で精肉と総菜の店を開いていましたが、母親の介護をきっかけに、美惠子さんの出身地である三戸町にUターンしました。貞一さんも同じ青森県内の出身とはいえ、2人とも人生の半分以上が東京暮らし。移住は大きな決断でしたが、年を重ねた母の希望を叶えてやりたいと、40年以上続けた店を閉めることにしたのです。
 移住当初、仕事を再開するつもりはありませんでした。しかし日が経つうちに、社会との接点を持ちたい、またお客さんを喜ばせてみたいと、働きたい気持ちがうずうず。しかも戻ってきた三戸の街は、美惠子さんが青春時代を過ごした頃の輝きを失いつつありました。
 「なんだか商店街が寂しくなっちゃっていたからね。小さなお店でもやれば、少しは元気になるのではと思って」
 せきね一番のオープンには夫婦の生きがいと、地域活性化への願いもこめられていました。

お客さんとのお喋りが活力の源

 東京の常連客に愛され、磨いてきた確かな味に2人の気さくな人柄があいまって、開店後はまたたく間に名物店に。テレビをはじめメディアにもたびたび取り上げられました。
 「八戸市や三沢市からもお客さんが来てくれる。『おいしいものを食べるためなら』って。遠くから来てくれたんだ、わざわざ寄ってくれたんだと思うと嬉しいよね」と美惠子さん。三戸町観光協会が主催するまち歩きの参加者や、観光客もよく店に立ち寄ります。近所に住む常連客からは「お店で使って」とたびたび自家製野菜をもらうそうで、そんなときは立ち話に花が咲きます。お客さんとのコミュニケーションが、美惠子さんの一番の楽しみです。そしてもう一つ、心待ちにしているのはお祭り。提灯が中心街を照らし出す夏祭りや、豪華な人形山車が練り歩く秋祭りには、店の前でお惣菜を売り、町行く人々からパワーをもらうといいます。
 「ここの人たちはおっとりしていて、ほっとする。のんびりした空気が、今の私たちにはちょうど合っているのよ。体が続く限りお店に立ちたいね」(美惠子さん)
 キビキビと働く姿が若々しい2人。これからも三戸から、おいしいお惣菜と元気を届けます。

移住者のライフスタイル

 移住先は「ほどよい田舎」が人気です。
 生活するうえで必要な都市機能を備えながらも身近に美しい自然が広がり、人と人の支え合いが根付く暮らし。そんな便利さと暮らしやすさを兼ね備えた生活空間がここにはあります。
 物質的な豊かさは都会ほどではないかもしれません。
 でも、心にゆとりを与えてくれる人との絆がここにはあります。人との絆を、個人の制約ではなく個人の楽しみに変えることができる人に、この地で半都半邑の楽しさを味わってほしいのです。