移住者のライフスタイル根市 大樹さん (南部町 平成16年 Uターン)


根市 大樹(ねいち・ひろき)
1981年生まれ。大阪芸術大学文芸学部卒業後、Uターン。新聞記者、オーストラリア滞在を経て2011年、弟でシェフの拓実さんとフレンチレストラン開店。農業のかたわら「NPO法人青森なんぶの達者村」立ち上げに関わり2年間事務局を務める。16年、合同会社南部どき設立。18年12月、三戸駅前に同名のカフェを開店。

祖父と過ごした畑が原点 農家支援と地域おこしに着手

 青い森鉄道・三戸駅前に同名のカフェを開いた合同会社南部どき代表・根市大樹さん。年々寂しくなる駅前通りを活気づけたいとの思いがオープンのきっかけでした。
 「地域の人がコーヒーを飲みながら休んだり、話したりする場所があればいいなと」
お年寄りにも気兼ねなくくつろいでもらいたいと、店内の長椅子は病院から譲り受けたもの。2階にはキッズスペースを設けて、家族連れが利用しやすくしています。
カフェのほか、果樹栽培の過程で出る剪定枝を使った燻製製品の開発・販売、果物狩り・燻製づくりの体験型観光など、農家支援と地域おこしに幅広く取り組む根市さんは、今や町の若手リーダーといえる存在。しかし10代の頃は、「地元も農業も大嫌い」だったといいます。根市家は兼業農家。
 「じいちゃんに畑に連れて行かれて、収穫とか穴掘りとかやらされるのが嫌だった。他のみんなはテレビ観たりゲームしたりしてるのに、なんで僕と弟だけ!?って」
 しかし大学4年生の夏、その価値観は、祖父の死をきっかけに揺らぎ始めます。
 「木からもいで食べたさくらんぼの味とか、ぶどうをつまみながら近くの川で釣りしたこととか、そんなことばかり思い出して。たいしたことじゃないと思っていた畑での時間が、自分の中ですごく大きなものだったんだって気づきました」
 内定していた都内の就職先を蹴ってUターン。地元紙の記者になりましたが、耕作放棄地の増加や後継者不足など農業の厳しい現実を目の当たりにし、農家を継ぐことを決意します。農家レストランを開店し、食材用野菜の栽培に取り組むうち、今度は近隣の農家が販路に悩んでいることを知ります。地域おこしNPOの設立メンバーになると、販路拡大のため積極的に首都圏へ。野菜や果樹のほか、町で行われてきたグリーン・ツーリズムを売り込み、国内外から年間2,300人以上が訪れるようになりました。

子どもたちと一緒に五感を使って感じる自然

 カフェ『南部どき』で店長を務める妻・雪奈さんとの間には2人の息子がいます。子どもたちとの時間を通じて、南部町の良さをあらためて実感しているとか。
 「山があって川があって。南部町は、日本人の心の原風景みたいなところだと思います。朝起きて『山の紅葉が進んだね』とか『風が冷たいから雨が降りそう』とか、五感を使って自然を感じられるのは気持ちいいし、子どもと同じことを体感して、自分も一緒に育っていく感覚が嬉しい」
 19年6月には音楽やアート、ヨガなどのイベントを初開催。子どもたちに地域での思い出を作ってほしいから、「息切れせず(笑)ゆるく長く」続けるのが目標です。

移住者のライフスタイル

 移住先は「ほどよい田舎」が人気です。
 生活するうえで必要な都市機能を備えながらも身近に美しい自然が広がり、人と人の支え合いが根付く暮らし。そんな便利さと暮らしやすさを兼ね備えた生活空間がここにはあります。
 物質的な豊かさは都会ほどではないかもしれません。
 でも、心にゆとりを与えてくれる人との絆がここにはあります。人との絆を、個人の制約ではなく個人の楽しみに変えることができる人に、この地で半都半邑の楽しさを味わってほしいのです。