移住者のライフスタイル極檀 優也さん (南部町 令和2年 Uターン)
極檀 優也(ごくだん・ゆうや)
1994年生まれ。八戸工業高等専門学校から東京農工大学 応用分子科学科へ進み、発光ダイオード(LED)に使われる半導体などを研究。同大大学院修士課程修了後、大手石油元売り会社に入社し仙台市の製油所に勤務。2020年4月にUターン。明治時代中頃から130年以上続く青い森鉄道三戸駅前の旅館「清水屋」5代目。
旅館が100年続くためにまずは町を盛り上げる
黒光りする梁や柱に老舗の風格が漂う旅館「清水屋」。ここに5代目・極檀優也さんが戻ったのは2020年春のこと。
「お客様がいて両親が働いている旅館の〝営み〞そのものが実家のかたちだったので、変わってほしくなかった。あとは単純にサラリーマンが合わなかったのもある」と笑いを交えてUターンの理由を話します。 帰郷後、最初に取りかかったのが、南部町の風景を自らの写真でまとめたフォトブック製作。青い住谷橋から見える馬淵川と名久井岳、直線道路の先に建つ三戸駅と、背後に控える名久井岳。お気に入りの風景を詰め込んで宿泊客に手渡しました。
次に南部町・三戸町の南部せんべい店の商品を集め食べ比べできるサービスを開始し、翌2021年にはキッチンカーを導入。八戸市美術館をはじめ南部町内外のイベント会場などで旅館の名物料理や地元食材を使った丼ものを販売し、好評を博しました。次々とアクションを起こす原動力は「旅館と町」だといいます。
「僕の兄弟がどうしたら気持ちよくここに帰って来られるか、これから子どもや孫がどうしたら楽しく暮らせるかと考えたら、旅館が100年続けばいい。そのために何すればいいんだろって。それで旅館を盛り上げようとしてたけど、旅館が儲かっても町がなくなったら意味がない。まず町をどうにかしないとっていう気持ちで今は動いてますね」
「呼ぶ」から「育てる」へ 地域をつくる人こそ宝
旅館の広間を解放してイベントを開催したり、限定格安プランで集まった若者たちに町案内をしたり。自身の方向性も変化してきました。
「町に人を呼んで、知ってもらってというのも大事だけど、事業や教育のような、長い目で見て地域に人が根づくことを自分はしたいんだ、と気づきました」
地域をつくる人を育てたいと2022年、地域づくり関連事業を行う八戸市内の企業「バリューシフト」でインターンシップのコーディネーターとして活動を開始。自身のようなUターン者の受け皿づくりや、高校生が地域と関わる仕組みづくりなどにも力を入れていくつもりです。
「カフェ兼寺子屋を営む起業の先輩とか、事業を応援してくれる役場職員さん。移住者をサポートする人が増えてきて、町は今まさに変わろうとしている。一方で自然とか伝統の味とか、いい意味で変わってない素材もある。人が少ない分、一人一人がすごくフォーカスされる環境も、新しいことをやってみたい人にとってチャンス」と極檀さん。活動を通してつながった地域の人々とともに、新たな仲間を待っています。